くらげーむ

やったゲームの話をします

ゲーム性とゲーム体験(バディミ感想文補足)

タイトル通りの内容を話す雑記です。が、別に専門家でもライターでも開発者でも研究者でもないので、単に私がそれらをどういうものと捉えているかという思考の整理文です。ここに書いてあることが正しい定義であるとかそういうことは全く主張していないので注意してください。(エクスキューズ)あと喋りたいこと全部書いてるので長いです。くれぐれもよろしくお願いします。

前置き:バディミの感想文がバズった

kamkrgame.hatenablog.com

3月にクリアして半年苦しんだ末9月にまとめたバディミの感想文。
最近になってツイートの大変面白い素敵な漫画家の先生が当作をクリアなさり、その「ゲームとしてはあんまり合わなかったぜ!」という感想文(クリアしたぞ!バDミッションボンド|肘樹)が話題になった結果……

うちの感想文もついでにプチおバズり申し上げてしまった。

俺の訴えを聞いてくれよという気持ちで書いたところはありますけど、ここまで話題になるなんてな……こんな場末の感想ブログが。たくさん読んでくださってありがとうございます。だいたいどこ見ても大絶賛でAmazonの低評価レビューはちょっと極端なの多いし)楽しめなかった自分に孤独感を抱いていたものですが、記事読まれた方の反応を見てると今までどこに居たんですかというくらい似たような感想をお持ちだった方も実は結構居たようです。

しかし熱心なファンの方も多いタイトルであるためか、まあ色々……な言及の仕方もされておりました。それでも私は楽しかったよ~というお声については、その気持ちは尊いものなので場末の感想ごときに惑わされることなくしっかり大事になさってくださいという思いなのですが、不当に乱暴な低評価をつけていると非難されている方もいてちょっとため息が出ました。根拠は慎重に書いたつもりだったんですが……とはいえ、好きな作品のネガティブな感想を読むと気持ちが萎むということについては共感します。でも素直な感想なので自分のブログでは嘘つけません。ご勘弁ください。

そういうわけで弊感想文の感想は色々拝見させていただいたのですが、その中に「ゲーム性とゲーム体験は混同されがちだけど別物なんですよ」というようなものがあり……それがもしも弊記事を読んでの感想なのだとしたら*1さすがにあんまりだよと気絶しかけたので、正気を保つためにこの記事を書いています。

ゲーム性、ゲーム体験という言葉

まず最初に、「ゲーム性」という言葉と「ゲーム体験」という言葉は同じものを指しているわけではないということは確認しておきます。当たり前すぎますが……。しかしかといって無関係ということもない

ゲーム性については、桜井さんの定義では「かけひき×リスクとリターン」とされています。
www.youtube.com

ただし、これは全てのジャンルのゲームに適用できるものではありません。それは桜井さん自身もそう仰っている(後述)。特にADVはこの指標で測りにくいものも多いと思います。そして日常的には桜井さんのように明確な定義を設けて使われていないことの方が多く、かなり広い文脈で運用されています。

ゲーム性ってどういう意味なんでしょうか。そもそも〇〇性ってどういう状態を表す接尾語なの……とググったらがっちり言語学の論文出てきたので考えるのを止めます。解散! もうちょっとラフに行くと、だいたい「~っぽいもの」「~的なもの」という風に言い換えが可能な言葉のようです。それでいくとゲーム性とは「ゲームっぽさ」、ゲーム性が低いとか無いとかいう場合は「ゲームっぽいと思えない」ということになるでしょうか。実際そのような文脈で使用されている場面は見たことがあります。

しかし、それもまた何だか危うい気がします。「ゲームっぽいか」というと「ゲームという単語を聞いた時に想像するものに合致するかどうか」というような意味合いになってしまいそうです。私自身は無電源も含めて広いジャンルのゲームが大好きですが、それでもゲームと言って真っ先に想像するのはプラットフォームアクションかRPGです。ゲームのイラストを描いてください、と言われたらマリオ的な何かのイラストを描くと思います。

他にも、ゲームの性質(アクションである、パズルであるetc)、ゲームの難易度(クリアが容易/困難)、操作量の多寡などがそれぞれ「ゲーム性」と言い表されていることがあります。みんな文脈から判断してなんとなく通じていますが、改めて考えるとそれらは互いに全然違うもの/ことです。そのため、私はこの言葉をあまり使わないようにしています。140字に収めたい時はたまに使っちゃうけど。

一方、ゲーム体験という言葉はもう少し具体的で、指しうる範囲も限定的かなと感じます。要するに「そのゲームをやって得られた体験」ということですね。見た目にも分かりやすいです。ゲームをプレイすることで得られた体験のことをゲーム体験と呼ぶのなら、「特徴的なゲーム性によって他のタイトルでは得られないゲーム体験ができる」というような文章は成立すると思います。パッと見でなんとなく言いたいことは分かる。突き詰めると何言ってるのかよく分からなくなるけど……。これらを踏まえて、前置きの「ゲーム性とゲーム体験を混同している」という指摘は「あなたが楽しくないゲーム性だからと言って良いゲーム体験ができない作品というわけではないんですよ」というようなことが言いたい文章なのかなと推察します。

私はゲーム性という言葉を使ってないし、こんなゲームで良いゲーム体験ができる人なんて居ないだろみたいなことも言ってないんですけどね……。

(私の思う)ゲーム体験とは何か

実は当ブログのアバウトページにひっそりと「そのゲームでどういう体験が得られたかのメモ」と書いてあります。ストーリーの考察とか攻略方法の話をするより自分の体験の話をする方が大好きだからです。各記事にもちょいちょい体験の話をすると強調して書いていたりします。カッコつけて言うならば「ナラティブの話がしたい」ということです。こういう用語自分に適用するのなんかむず痒いのであんまり使わないのですが。なのでナラティブ重視と言われるゲームはだいたい相性が良いと自分でも感じます。風ノ旅ビトの長文感想も書いてますのでよろしくどうぞ。

先に確認した通り、ゲーム体験とは単純に「そのゲームをやって得られた体験」のことと言えます。「ボスに5回も負けてやっと倒した!」とか、「感動的なストーリーに泣いてしまった」とかいうものも全てゲーム体験に含みうると思います。ただし、私がわざわざブログにまで書き起こしたいと思う種類のゲーム体験は、もう少し狭い範囲の物を指します。

automaton-media.com

↑こういうのです。(ざっくり)
ちゃんと言葉にするならば、「プレイヤーがそれを体験するよう、システム的に仕込まれているもの」・「狙ってデザインされていた体験」というところでしょうか。あらかじめデザインされて仕込まれていた仕掛けが狙い通りに発動することでプレイヤーに発生する体験、主にそういうものを指して「ゲーム体験」という言葉を使っています。ゲームをプレイしていて楽しいと感じた時、これきっと作者の思う壺だ! と気づくと私はものすごく嬉しくなります。そのため製作者は自分に何を体験させたくてこのゲームを作っているのかと、常に考えながらプレイしています。*2ゲームと対話することが私の楽しみなのです。

しかしながら、上手い仕掛けはプレイヤーにそれを「自分だけの体験」と錯覚させてきます。「残り一発の銃弾で敵を倒し窮地を乗り切った経験」が発生しやすくなるよう意図的に仕組まれているとは普通気付けません。気づくのは何か仕掛けがあると勘ぐって記録分析してしまうような人くらいです。偶然の奇跡と思って感動して語りまくっていたら実は作者の掌の上だった、という例の数々が先の記事に書いてあるわけですが、それを知って「まんまと騙されたー!w」と思うのもまた楽しいものです。

そのようにデザインされていた訳ではない、プレイ中に本当に偶然発生した体験は上記のような「ゲーム体験」とは厳密には異なると思っています。それは個人の思い入れや感想といったところに表れますが、デザインされていない部分なので他のプレイヤーも同じ体験をする・同じ感想を抱く確率は低いです。単に自分が下手くそすぎて(開発想定では一度か二度でクリアできるはずの)序盤ボスに苦労して勝ったとか、感動的なストーリー展開に泣いた*3だとかいうことは、直接的にはゲームシステム以外の要因で発生している体験です。

意図してデザインされている体験は複数のプレイヤーが高い確率で経験することになるため、共感を生みます。それが作品評価にもつながってきます。ついでにいうと、意図してデザインしたわけではないがプレイヤーに共通の経験をさせ共感を呼び、評価を大きく下げてしまうこともあります。「高い再現度で発生してプレイに支障をきたすバグを仕込んでしまった」場合です。バグで遊べなかった体験をゲーム体験と呼ぶかどうかは意見が割れるところかもしれませんが、少なくとも近い概念であるUX(ユーザーエクスペリエンス)に相当するのではないかと思います。また、製作者はそのつもりで作ったわけではないけれどもシステムの仕様から自然とプレイヤーが同じ体験をするようになることもあります。ダークソウルでは身軽さを追求した結果全ての装備を脱ぎ捨てる全裸プレイという攻略方法が発生しましたが、作った人はまさかプレイヤーが全裸になるとは思っていなかったそうです。

出典ゲームゲノム。面白いです。
www.nhk.jp

裏話ブログもありがたい。
www.nhk.jp

「ADVの面白さ」とバディミの辛かったところ

www.youtube.com
桜井さんは「ゲーム性によるものではないゲームの楽しさを持つジャンル」の一つに、アドベンチャーゲーム(ADV)を上げておられます。
しかしどれ見てものけぞるほど分かりやすい桜井さん動画……これ無料で見ていいの?

このジャンルのゲームはかけひきなどよりも、物語を進めることによる面白さが先立ちます。小説や映画などの延長線上ですが、だからと言って、お話さえ面白ければゲームが成り立つわけでもありません。小説などと異なる表現方法、コンピューターを活かしたシステム、それを活かしたシナリオ作りをすることが、ゲームとしてのお話、妙、面白さを生みます。

バディミが小説などとは異なる表現方法で物語を見せていることは言うまでもないと思います。コマが動いて音が鳴る魔法のコミック的な魅力はたっぷりと詰まっていました。コンピューターを活かしたシステム、それを活かしたシナリオであったかどうかは……詳しく議論し始めると感想の域を出るのでやめておきます。*4

お話さえ面白ければゲームが成り立つわけでもありません。

私がバディミに対して疑問を抱いてしまったのはここです。物語を読ませたい、物語を面白いと思わせたいという意思は強烈なほどに感じられましたが、そこに意識がいくあまりか、「この操作をすることに何の意味があるんだ?」と非常に心が冷める入力要求場面が多かったのです。*5無意味で苦痛だという思いが募り、ストーリーを読み進めるモチベーションもどんどん下がっていきました。延々と続く「このゲームプレイに耐えるか、物語を諦めるか」の二択。

このクイズに答えさせることで、プレイヤーをどういう気持ちにさせたかったのでしょうか。どういう気持ちになるのが正解だったんでしょうか。

【バディミッションBOND】"ゲーム"は楽しいものであってほしい - くらげーむ

たとえばこの点について最大限歩み寄ってその意図を汲み取るとしたら(インタビュー内容から考えても)、すごく簡単なクイズを用意して「正解する」ことを楽しんでもらおう……ということだったのかなとは思います。しかしそれ(クイズに正解する楽しさ)って、おおよそストーリーの内容とは関係ないのでは……? 一部の出題に至っては関係ないどころかストーリーの方へ悪影響を及ぼしており、BOND諸君が立ち向かう巨悪組織DISCARDの構成員がものすごくアホに見える結果に。ナデシコさんのような有能な人材が揃うはずのミカグラ公安ですら尻尾を捕まえることができていなかったあの凶悪犯罪闇組織DISCARDなのに!?(DISCARDに対する過剰な期待)*6
コメディ要素もお話の魅力ではあると思うのですが、DISCACRDとの対決は本筋*7であるはず。サイドプロットでトンチキコメディやってもらう分には私も大好きですけど……。

雰囲気にミスマッチと感じて冷めてしまったということについては私の好みの話です。なのでそれについては「別に引っかかることはなかった」という方も多いと思います。ただ、あれらのクイズに回答する操作でストーリーに深みを感じさせられたのかという点についてはどうしても疑問です。作品ファンの大半が是と仰るなら、本当にただただ感性の不一致で不幸な事故だっただけということになるかなと思います。が、そうでもないならやっぱりその要素はいらなかったんじゃないの……? 

ゲームとしてプレイするからには、やはり私はそういうところにも意味を見出せるものを用意してほしかったと思います。「ゲーム要素はオマケなんだよ」と言う声も聞こえてきたのですが、だったらなんでオマケに本気出さなきゃメインのテキスト読めないようになってるんですかと嘆かざるをえない。ゲーム大好きな私が「こんなことならもうゲーム要素いらないよ!!」と叫ばなくてはならなかった時の気持ちが分かりますか……!?

(;ω;) スン。

【追記】この話に悪の組織との対決を期待して読む人は居ないのではと指摘が来ました。そ、そうなのか……そうなんですね……であればDISCARDの描写については私の方がお呼びでない、入る店を間違えた客だったようです……。

亡き養父の夢を継ぎ、ヒーローを目指す警察官ルークと被害総額・数百億ともいわれる「怪盗ビースト」こと、アーロン。数奇な出会いが2人の運命を大きく変えていく……。頼れる相棒として助け合い、時にはぶつかり合いながら、ルークの父の死の謎、そして世界を揺るがす大きな陰謀に立ち向かう熱き友情の物語。
https://store-jp.nintendo.com/list/software/HAC_P_AQ2FA_JPN.html

でも公式のあらすじこれなのに? う、うーん。
これにカテゴリ表記の「アドベンチャー」「なぞ解き」が合わさるともはや看板に偽りがなくもないという気が……。

まとめ

以上、私の思う、私がゲームに期待する「ゲーム体験」の話でした。
長ぇ。ここまで読んでくださった方お疲れさまでした。ありがとうございます。

バディミの感想として「最高のゲーム体験だった」と仰る方を結構見かけるのですが、添えられている理由を読む限り、私の感覚で言うならばそれはどちらかというと「最高のストーリー体験だった」に近いものだなと思います。(同じ理由であれば私ならそう表現する、という意味です。)私には他の方の「最高のゲーム体験だった」という気持ちを否定する気は毛頭ないし、そんな権利もありません。ただ、その使い方は私が考えるゲーム体験とは違った。だから私はバディミをプレイした感想として「ADVに望むゲーム体験が得られなかった作品(これならゲームじゃなくても良かったな……)」と思いますし、それを誰かから勘違いだとか誤解だとかおかしいだとか否定される筋合いもまたないものと思います。それに私個人がそう思ってそう言ったことで客観的普遍的事実としてバディミはゲームと呼ぶのにふさわしくないという結論にはならないはずです。そのような主張としては書いていない。むしろ事実としてバディミはゲーム作品の賞レースで受賞を果たしているわけで、個人がどうこう叫んだところでそれは揺るがないでしょう。ゲームじゃなくていいとか言う人には心の中で機関銃をぶっ放しても許されるよね、とか書かれてしまうと直接言われてなくても威圧感を覚えるので、そういうのを見えちゃうところに書くのはできればやめてほしいです。お互いの感想を尊重しましょう。どうぞよろしくお願いします。

*1:RTされてなかったので話題に乗っかっただけかもしれないんですが

*2:なのでインタビュー読みまくって答え合わせもよくやります。

*3:演出使って泣かせにくるのはどうなんだみたいな話になってきそうですが、ここではシナリオテキストに感動したくらいの意味にとってください。

*4:アナザーエンドのシステムはシナリオのメッセージを損なう方に働いてないか? という批評は元記事の方でしています。それは実際ちょっと感想の域をはみ出し気味です。

*5:全てとは言いません。Aボタン握手などについてはその意義を理解できたと思います。ただし、諸々の理由でそれも私には刺さらなかったです。そこについては単なる相性の問題ですし、辛いという程でもなかったので言及していません。

*6:序盤の倉庫の時点でダメっぷりは察しろということだったのかもしれません。でも幹部中枢までそんなノリだとは思わなくて……チェズ登場時くらいまでは結構怖そうだったのにな、DISCARDくん。

*7:「テーマ」ではなく本筋。あらすじの主の部分。メインテーマであろう人間の絆部分については終始シリアスでした。