くらげーむ

やったゲームの話をします

心がまだムーンパレスにいる(ファミレスを享受せよ/感想考察)

ファミレスを享受した余韻が抜けない。
まだ年明け1月しか経ってないのにもう今年のベストゲーム出てしまったかもしれない。あまりに良すぎてまだ意識がムーンパレスに取り残されています。これ語りつくさねば百万年出られないような気がしてきたので前記事では抑えていたネタバレ感想・考察・解釈を綴っていきたいと思います。他人の感想吸いたい方向け記事です。はちゃめちゃクソ長いです。お暇な時にでもどうぞ。

この先ネタバレがあります。
TRUE END(エンドロールの後に後日談がある方)まで見ていない方は読まないでください。
(居ないとは思いますが)未プレイなのに中身だけ知ろうとしている方、そこまで興味あるなら先にやってください。ブラウザで今すぐできる無料の短編ゲームです。2時間あればエンディング見られます。ホラー要素はありません。
oissisui.itch.io

難易度は高くないですが攻略のヒントを載せているのでもし詰まるようなら参考にどうぞ。
kamkrgame.hatenablog.com

全て享受しましたか? いいですね?

ムーンパレスの五人について

みんな本当にいいキャラで……大好きになってしまった。ずっとずっとジュース飲みながら雑談していたいです。TRPGはやったことないけどセロニカさんGMの卓にはちょっと参加してみたい。

ラーゼ

姿を直接グラフィックで描かれることがなく、プレイヤーの視点人物となる人。名前は最終盤まで明らかになりませんでした。マップ画面にも「あなたの席」って書いてある。主人公は一人の人格を持った人物であるが、同時にあなた(プレイヤー)でもある、というスタンス好みです。ここに名前書かれてるとプレイヤーとは結構距離感が出ます。大きな差というほどではないものの、記憶の回想シーンを除いて全て主人公の主観視点の絵であることと合わせて、名前が明かされていなかったことは彼女とプレイヤーの一体感アップに貢献していたと思います。

趣味で難関資格試験を受験しようとしている上に試験自体はヤだなあと思ってるだとか、いくらそれしかないったって16桁総当たりをやってのけるだとか、なかなか他に心当たりのないユニークな人です。そんなアイアンメンタルの持ち主でもコーヒー止まらなくなったら「助けてー!」ってなってフリーズするのが良かった。あああ、ああー……と思考完全停止でつま先を見つめることしかできない中、色々喋ってるみんなの声が右から左に通り抜けていくのがリアル。

ガラスパン

古株ダウナーお姉さん。セリフ回しがあまりに良すぎて真似して言いたくなる語録が多すぎる。「月は満ちに満ちているし、ドリンクバーだってある」本当に好き。あとラテラのセリフだけど「めちゃナイーブでメランコリな少女」も好き。月は~のセリフも元はラテラの発言なので、つまりラテラの言葉が刺さりまくっている。でもそんなラテラは居ないのだと指摘した際に言われる「真実を、ありがとう」もまた……もうテキストにやられすぎて中身のない感想ばっか出てくる。参りました。

ガラスパンさんの雑談がこれまたどれも魅力的で、ミステリー小説の話と金色のカブトムシの話が分かる……と深々胸に突き刺さりました。特にこれといって何者でもない自分に努めて満足しようとしながらじっと内面見つめて生きている感じ。ナイーブでメランコリな少女。ラーゼがかなり剛の者なので並に見えるけどガラスパンさんは強い人だと思います。しかもちゃんと社交性があって面倒見がいい。コーヒー事件の時もサッと動いてレジにタオル探しにいってたの好き! って思いました。

セロニカ

良心が服着て歩いてる。薬によって出来上がった新たな人格……とはいえ、記憶が差し変わっただけで性格はそのままだったんじゃないかなという気がします。好奇心旺盛なのが会話にダダもれでかわいい。コーヒーメーカーにうずうずしてたの笑ったしTRPGが好きすぎる。無限に時間があるんだったら人生一回じゃ足りないくらいのスーパースペクタクル大サーガシナリオを作ってしまおう! で、本当に作り上げるの総当たり作業ほど苦行ではないにしろ持続力がすごい。別種の集中力。月の不死者さんたち物語娯楽がお好きなようだし、持って帰って休暇中にでもみんなでシナリオ回すと良いと思います。幸せに生きて。

一番心に来た記憶はセロニカさんの話でした。本当に優しくて慈悲深くて(多分隣人である人間も含めて)みんなのことを心から想っているのでずっと苦しんでいた。流刑罪についても思うところがあった様子ですが、人間のことも考えていたからその線引きは必要だとも思って葛藤していたのかもしれません。クラインに刑を言い渡す時の沈黙の長さ……背を向けている絵なのに、目を伏せている表情が浮かぶ。エンディングでは吹っ切れて前向きになれていてよかったです。

私情です。と言い切ってみんなの記憶消さないの、柔らかく温かい。セロニカさんはここで共に過ごしたみんなのことを忘れないし、みんなにも忘れないでいてほしいんですね。一緒に卓を囲んだ友だちですからね。

王さま

もはや人生が美しい寓話そのものです。何もかもクラインと語らった通りじゃないですか……。物語の構造自体は割と王道ですが、演出が、良すぎた。月だけを映しながら二人の声が聞こえてくる。これもまたセロニカさんと同様、顔が見えないのにありありと表情が浮かぶ。先にファミレスで王さまの向かいに勝手に座り、いろんな話を本人から直に雑談として聞く過程を経ているので記憶の回想が全然他人事じゃない。この人を死なせたくないというクラインの気持ちがめちゃめちゃに分かってしまう。

月の絵だけ映すとか、コーヒー垂れ流しの足元だけ映すとかの演出は作者さんの制作裏話にあったようにスチル枚数・工数削減の意味もあるのでしょうが、制作上の都合をそうと感じさせないように組み込んで作品の強みに変えてくるやり方大好きです。

「あなたの愛したクライン」ってさらっと言われて何とも甘酸っぱい感じのリアクションする王さまいいですね……。気持ちはしっかり持ってたけど言語化はしてなかったのか。あらためて言われると……まあそうなんだけど、みたいな。ついでに完全なによによ顔(に見えてくる)で茶々入れてくるガラスパンさんが面白すぎました。

ツェネズ

よく頑張りました……。46番さんもツェネズちゃんのこと可愛がってるんだろうな。おどおどしていて自分に自信がなく、自己評価が低い。でも実際、そんな自分を変えたい! と行動できる力を持っているし、能力は全然低くありません。マニュアルもしっかり読み込んでいて、ちゃんとゲートの開け方把握してましたし。心配性すぎて緊張して逆に色々上手くいかなくなってしまう性格。7番さんは適当すぎるにしても、ラテラさんくらい程よくテキトーに大丈夫大丈夫って思えるようになっていったらいいですね。でもこの件が何とかなったことと、慈悲深い処刑人が戻ってきたことと、あと月の法はファジーで甘くてそこまで怯えるほどのものじゃないことを教えてもらったので、きっといい方向に向かっていくでしょう。

ツェネズのセリフは最初からずっと何とか取り繕おうと頑張っているのが分かりやすくて怪しいのですが、上擦って震えている声を聞いていると(ボイスないけど聞こえてくるんですよ……)助けてあげたいなあという気持ちが自然とわいてきます。特に上手いなと思ったのが「ツェネズについて」の話題を振った時のリアクションで、急に素性を問われて「エッ! どうしよう!?」と慌てたツェネズが思わずなんかないかと部屋を見回して机に放置していた本が目に入り、そこから拝借した設定をしどろもどろに語る様が見えるようです。

あとデザインがかわいくて好きです。お団子ヘア似合ってる。冷蔵庫開いた時に素で「あらかわいい!」ってなりました。

考察のようなもの

考察のような妄想のような。はっきり語られなかった気になる点について色々考えました。

以下の内容は有料製品版発売前に書かれたものです。
無料版をやった当時に色々想像膨らませて楽しんだ痕跡です。楽しかったな~の記憶と思考の跡を残すために置いておきますが、ぶっちゃけそのものずばりの回答が製品版のイラストギャラリーで明かされているものもあります!よって以下は本作にドハマリした人間が楽しそうに踊り狂ってる日記としてのみお楽しみください。まあ、そんなこと言われずともだろうとは思いますが念のため……。

そういうわけですので、もし本編で語られなかった設定がもっと知りたくてこの記事に辿り着いた方は今すぐ製品版を買ってください!

ムーンパレスとはなんだったのか

A.わかりません。
分からないけど、別に分からなくてもいいと思います。

とはいえ気になる! そして想像が捗る。全部は分からないけど、出ている範囲の情報を整理してみました。

クラインさんのデータによれば、ムーンパレスは月の不死者さんたちが使っている施設のひとつ。跋文の中にも「ムーンパレスのふたつめの月」という文が出てきます。これが「安楽の月」と呼ばれる場所と思われます(跋文2P目)。ムーンパレスの客席とキッチンからはそれぞれ月が見えており、この二つは「用途が違う」とだけツェネズが教えてくれます(話題:月はふたつある)。このもう一つの月がクラインの居る「流刑の月」です。明言されている箇所はなかったと思いますが、ツェネズに「月について」の話題を振った際に尋常でなく怯えることから、流刑の月と考えていいのではないかと思います。3/27訂正:最後の会議で今見えている月が流刑の月だとセロニカが明言していました、すみません)つまるところ、ムーンパレスという施設はこの二つの月を管理するためにある物なのかなと思われます。そしてここにどういう訳だかシステム上の都合から人間が漂着してしまう可能性があるため、見られても直ちに問題のないようにレストランの見た目に偽装されているようです(話題:ストローについて)。

成形設備は管理人室に置いておいた方が安全なんじゃないのか、とか、管理人ワンオペにするから事故した時に大変なことになるんじゃないか、とか色々思うところはあります。が、跋文の様子やクラインさんの管理文書から察するに月のひとたちも決して万能ではなく、色々な失敗や至らぬところがあることが分かります。きっと何か事情があるのでしょう。個人的にはそれで納得できるので特にモヤモヤはしません。計器が下まで降りてきたらどうなっちゃうのかも気になるけど、ツェネズちゃんが「色々……」というなら何か色々起こるんでしょう。納得。

【追記】イラストギャラリーでばっちり解説されていました。二つの月は主目的じゃなかったです。メンテの間は滅多に訪れないって言われてたのを違和感ありながらスルーしちゃってたけどそういうことかー。ムーンパレスだけではなく月技術関連のお話たくさんあります。すごい部分はものすごい一方で緩いとこはめちゃくちゃ緩い月の民、いいな……。

姿を見られてはいけない

月の不死者さんたちの正体はどろっとした黒い液状の生命体であるようです。この姿を人間に見られると「法に抵触する可能性が極めて高い」らしい。見られてしまうこと自体は触法行為ではないんですね。人間の記憶を消去する技術を持っているので、実際見られただけならさほど問題にならないはずです。消せばいいので。

ここからは想像ですが、姿を見られたことで法に触れるのはそれが原因で人間が心身に傷を負った場合*1なのではないでしょうか。人間への加害行為が法に抵触するということは明言されています。記憶を改修することはできても、不可逆な精神状態の治療方法は見つかっていません。漂着者が身体を自傷することはないよう制御してありますが、記憶の消去では対処しきれないダメージを精神に負った場合はどうにもできない可能性があります。とにかく人間を傷つけてはいけない。それを重い法として順守している月のひとたち。

※「処置を除いた一切の加害行為は法に抵触します」と管理文書にあります。処置を除いた、とあるので人間の記憶を消すことも加害行為であると認識していることが伺えます。でもそこだけは妥協して処置させてもらうと決めているらしい。おそらく人間との共存を続けるために。

セロニカさんは「いつか人間の技術が発達して月の不死者たちと邂逅した時、過去に彼らが人間を傷つけていたことが分かったら大問題になるから」という旨の理由を語っています。月のひとたち、めっちゃ人間にやさしい。作中に登場している月のひと全員とても思いやりがあります。跋文に出てくる6番さんと111番さんも優しくて悲しい。46番さんは理想の先輩すぎる。穏やかで知的で、あと多分読書家です(ツェネズちゃんもクラインさんもセロニカさんも本好き)。いつか人間と正面から邂逅した時、むしろ人間の方がやらかさないか今から勝手に心配になります。あの世界の人間が善良であることを祈ります……。

月の不死者たちの名前

1から113番の数字が彼らの実質的な名前であるようです。でもクライン、セロニカ、ツェネズ、と一部人間らしい名前を持つひとたちもおり、番号同様日常的に使用されていることが分かります。じゃあどっちが本名(?)なのか。私は番号の方が本当の(元から使われていた)名前で、人間名は後からつけた愛称・通称ではないかと考えています。

当初成形といえばお魚の形にすることであり、92番さんはその際の事故で精神に不可逆な傷を負いました。そこから長い時間を経た後クラインと対面した時、92番さんは人間というものを知りませんでした。*2成形事故をきっかけに機械の改良が行われた結果人間形態をとるようになり、それに伴って人間名を考えたのではないかと思います。


肉体が精神を形作ります。われらは人類に近づいた。
なので、人間っぽい名前も考えた?

ところで人間名が愛称だとすると、親しい相手ほど人間名で呼びがちだったりするんじゃないかな〜と思いました。(感想)そう思うと46番さんがツェネズちゃんって言うのには何だか可愛がってるニュアンスが出るし、逆にツェネズちゃんが46番さんを本名呼びなのは先輩相手に畏まってる感じがします。*3そして名前の件で何より強く残っているのは、「セロニカ、もうやめましょう」の良さですね……処刑人と罪人の聴取を友人同士の対話に引き戻す一言でした。そんなの好きに決まってるでしょうが!

【追記】イラストギャラリーに情報有ります。半分くらい当たりでした。そんなことよりなによりクラインとセロニカの激エモ情報が飛び出してきた衝撃で床に転がりました。ツェネズちゃん情報も良かった。ツェネズちゃんはもういかにもツェネズちゃん! って感じだったんだろうな……。

跋文の内容

間違い探しクリア特典の跋文(92番の証言)は非常に読みづらい文章になっていますが、内容は意外とそこまで難解でもありません。以下、整理して要約してみます。ネタバレ強めなので色薄くしておきます。できれば頑張って間違い探しクリアしてから読んでください。

92番は「箱舟」の4番舟に予備船員として乗船していたが、4番舟は不測の事態により地球のどこかにある砂漠に座礁してしまった。この時、乗船者の幾人かは非成形状態であり、6番が彼らの成形を提案する。111番を成形機につないだところ、本来魚の形になるはずがヒラタイウオムシ(9Pの物体?)となってしまう。機械の故障が疑われたが、精神に影響は出ていないとして111番自身が成形の続行を提案する。そこで次に92番の成形にとりかかるも、「ぷっつ」という異音が生じ、92番の様子がおかしくなってしまう。ここで6番と111番は機械の故障を確信し、92番に使用したことを後悔する。その後、92番とみんな(4番舟のメンバー?)は6番の指示により長い時間を舟の中でじっとして過ごす。ある日、6番が他の仲間と共に92番を訪ねてきた。仲間は人間形態に成形済みで、68番ではなくクラインを名乗った。クラインは92番に色々な質問をした(おそらく精神状態の確認をしている)。92番は魚に再成形することを望むが、クラインは「それはできない」と回答する。クラインは92番が「不可逆な精神状態」に陥っていると説明し、現在治療法が見つかっていないため「ムーンパレスのふたつめの月」で待っていてもらうと告げた。92番は海がある素敵な月(安楽の月)へ移され、92番と同様の状態になっている5人の仲間と共に過ごしている。

※以下想像ですが間違っていた気がしてきたので訂正します。ここは飛ばして追記訂正に進んでください。
まず「箱舟」とあることから、彼らは宇宙のどこか別の場所から航行してきたことが察せられます。いくつかの舟に分かれて旅をしていましたが、4番船だけが地球に墜落してしまいました。地球は目的地ではなかったのでしょうが(あるいは特に目的地はなかったのかもしれませんが)、移動が不可能になったのか、あるいは地球を気に入ったのか、月に定住することを決めたようです。

前項目でも言及しましたが、彼らが人間の形に成形するようになったのはおそらく92番の成形事故後のことであろうと推測されます。地球に来て初めて人類を発見したのではないでしょうか(お魚は宇宙のどこかにも居たのかな……)。6P目の「座礁」にはラクダに乗った人間が描かれているので、イラストは事実の再現であり脚色されていない、と仮定すれば彼らが地球に来たのは人類が既にそこそこ発展を遂げている時代のことだと考えられます。6番たちは未知の生物が近くに居る状況に焦り、故障が疑われる機械をそのまま使用してしまったのかな……などと想像してしまいます。

【5/9追記訂正】
「箱舟」なので、旅ではなく元々地球に住んでいたのが何らかの事情により脱出した可能性の方が高い気がしてきました。間違い探しの絵と合わせても、地球から月に向かって移動を始めた途中で一隻座礁したと見る方が自然だったかもしれません。人類が進化して発展してきたから引っ越しを決めた……とか? 元々地球に居たならお魚姿のモデルは地球産のお魚だと考えられます。

でもこういう設定は作者さん曰く「作者が答えればすべて解決する」とのことなので考えるのはこの辺にしておきます。それはそう。

92番はもう一度どろどろに戻ってからお魚になりたいと言いますが、それに対する「できない」というクラインの回答も気になります。管理文書やツェネズの記憶からして、成形体は永続ではなく溶けてしまうことがあるようです。それにもかかわらず92番は再成形が不可と診断されています。不可逆な精神状態が原因なのでしょうか。精神は無事だった111番が機械の故障に楽観的だったので、通常であれば再成形は可能なのかもしれません。

安楽の月には92番以外に5名の仲間が居るとのことです。現ムーンパレスの客数と一致するのがそわそわしてしまいますが、文脈からして彼らは不可逆な精神状態に陥った月の仲間のことであるはずなので、人数一致は偶然だと思います。それにしても、同胞113人しかいないのに6名もこの状態になってしまっているというのは割合として小さくないし、悲しくて辛いですね……。現状人間の死に近いとは言われていますが、実際完全に死に至ることはない種族ですし、早く治療法なり緩和の方法なりが見つかったらいいなと思います。スーパー技術者クラインさん流刑の月なんかに入れてる場合じゃないと思う。セロニカさんどうにか法改正頑張ってほしい。

【追記】作者を拷問しなくても1500円払うだけで全て解決しました! 不可逆な精神状態に至った主なきっかけとして「他者からの拒絶」とあったのですが、もしかして以前の管理人さんがそうなってしまったのもこの理由だったんでしょうか。人間と違って無限大の時間を過ごすこと自体は特に問題なさそうなのにどうしてなんだろうとずっと不思議だったんですが、こっちが原因だったなら? いつかのムーンパレスで悲しい出来事があったのかもしれない。やっぱりワンオペ止めた方がいいんじゃないかな……。

16桁のパスワードは本当に総当たりさせるつもりだったのか

いくら不死のクラインさんでも16桁総当たりでやってもらいましょう! という設計にはしてなかったんじゃないかと思います。思いたい。

「話題:ストローについて」をデータクラインさんに尋ねると、「本来なら処刑人の手に渡るはずのもの」と言われます。つまり、セロニカさんが箱を開けてくれるはずだったのでは?*4*5 自分が流刑になった後、セロニカさんがムーンパレスを訪れて王さまから箱を受け取り、自分の望みを聞いて王さまを地球に返してくれる算段だったんじゃないかと思います。王さまによれば「信頼できる人が現れたらこれを託すように」と言われたとのこと。セロニカさんなら王さまにも信頼されると確信していたのかな、クラインさん……。

というわけで、パスワードはセロニカさんが知っている、ないしは心当たりがあって解読してくれる数字だったのではないでしょうか。でもセロニカさんはクラインさんが予想していたよりもずっともっと深く親友を手ずから流刑に処したことに傷ついて薬を飲み記憶を失ってしまったと……辛い。時間はかかったけど大団円になって本当に良かった。よかった……。

メタ的には総当たりさせるために作られた箱なのでこの解釈が正解かどうかは分かりません。全然的外れってことはないと思いたいですが想像の範疇です。

ラテラは何故突然消えてしまったのか

ラテラはガラスパンのイマジナリーフレンドでした。それも元から居たわけではなく、ムーンパレスにやってきてから現れた人であろうと思われます。ツェネズの記憶の中で、ガラスパンが初めてツェネズに声をかけた時「気がついたら、ここにひとりでいて困っていたんです」と言っています。ガラスパンは一人目の漂着者。ツェネズも部屋から出てこず、孤独感はいかばかりかというところ。孤独とストレスからイマジナリーフレンドを出現させた、というのは不自然ではないと思います。

何せ途方もない時間が流れていく空間なので、そのうちにラテラとの思い出も全て現実にあった本物と思い込んでも不思議ではありません。一方、イマジナリーフレンドというものはいつの間にか消えてしまう、出てこなくなってしまうこともある存在のようです。でも困惑するほど突如消失するという話はあんまり聞きません。段々会う頻度が減ってそのうち記憶からも消えるとか、別れを告げて去ったとかいう話の方が一般的なようです。

ではなぜラテラは突然消えてしまったのか。私はガラスパンがミルクを使い果たしたからなんじゃないかと思っています。

トークンはムーンパレスの装置(転送装置)を利用するのに必要なエネルギーのようなものとクラインが説明してくれますが、ツェネズの記憶の中に「トークンで時間飛ばそう……」という台詞もあります。トークンを使用することで主観的な時間が飛ばせるのだとしたら、ミルクだと思ってトークンを使いまくっていたガラスパンの時間は……?

トークンを使うたびに百年千年単位で主観時間が飛び、ラテラがその間に消失していたのだとしたら、ガラスパンの主観ではラテラが急に消えてしまったように感じるのではないでしょうか。ラテラは王さまがムーンパレスに至った時点で既に消失しています。(王さまが目を覚ました時、狂乱しているガラスパンの声が聞こえます。)そして、ミルクも王さまが来た時点で使い果たされています。ガラスパンはトークンを一人で*6相当な量使っています。いったい何年飛んでしまったのか。しかし離れた部屋にツェネズが居るだけの停滞したムーンパレスでは、何年飛んでようが多分そのことには気づけません。

ただまあ、トークン直に飲んだら時間が飛ぶという確かな根拠はないので全部想像なんですけどね!

【追記】ラテラが去った理由についてはギャラリーで解説がありましたが、ガラスパンさんがあそこまで取り乱してる理由は書かれていませんでした。イマジナリーフレンドのよくある話とは食い違うので特殊な事情があるのかなあと色々こねくりまわして考えはしましたが、単に感情が追いつかなかっただけみたいな真相だったりもするのかもしれません。どちらにせよ重要なのは消えた経緯よりそれでガラスパンさんがどう変わったかということなので、真相を掘り下げる必要はないんですよね。ついつい気になっちゃうけど。

ラーゼとガラスパンはどうやって再会したのか

地球のムーンパレス(ファミレス)でばったり再会してアーッてなったんじゃないかなと思います。根拠は皆無の想像ですが。過酷な経験でもあったはずだけど「みんな元気かなあ」と思うくらいには思い出の場所になったムーンパレスなので、あの後同名ファミレスの常連になっててもおかしくない気がするんですよね。ファミレスを享受せよ。パンケーキはちっちゃいけどカレーはおいしいしドリンクバーだってある。……言いたかったので言ってみましたが内装がラーゼの入ったムーンパレスとは一致してないので、後日談の店がムーンパレスだという確証はないです。ガラスパンさんのセリフ、本当に隙あらば言いたくなるんで困る。

【追記】全然違いましたね! 違いすぎて笑っちゃった。お別れからあっさり偶然再会するっていうシチュエーションが好きな自分の趣味を反映させすぎた妄想でした。そこまでするほど懐いてたとは本編描写では気づかなかったよ! ツーショのイラスト最高でした。

演出の話

この作品の「本当にみんなと雑談していた気がする」という確かな実感にやみつきになっています。まだ抜けない。まだ心がムーンパレスに居る……みんなの声を知っていると思うし、描かれていなかったはずの表情も覚えている。(鮮明すぎる幻覚)何がここまでの没入感を生んだのかなと気になってちょっと整理してみました。

向かいの席に座る主観図

これは前記事でも触れていましたが、テキストアドベンチャーで定番の「キャラクターの正面立ち絵」と相対する形ではなく、机を挟んで向かい合う絵になるのが大きなポイントだったかなと思いました。立ち絵+下半分テキストウィンドウの形になっていると、私はテキストだけ高速で読んでしまってろくにキャラクターに目が行かない傾向があり、ほぼ小説を読んでいるのと変わらないような動作になってしまいます。待ちきれずにボイスもカットしがち。(その点十三機兵防衛圏の吹き出しシステムが高評価を受けていましたが同感です)

テキストウィンドウ位置を固定しない手法自体は多分他にもあったと思いますが、当作の場合ここはファミレスであるという舞台設定が強烈でした。みんなと向かい合って座っている絵が、自分の記憶にある誰かとレストランに行ってこのように座った光景と重なって実在感がドッと来る! でも作者さん自身はファミレスほとんど行ったことなかったとのことなんですが。なのにこのリアリティが出るの? お見事すぎます。

※作者さんのサイトに制作裏話があります。
http://oississui.com/bunsyo/pages/20230201b.html

テキストウィンドウの位置

ウィンドウはフリーハンドで描かれている背景と異なり機械的な直線で構成されているので、話題リスト等と同様UIの側に属する物だと判断できます。が、キャラクターの居る位置に寄り添うように上手く配置されているので、漫画の吹き出しのような効果になっています。とても読みやすくて自然です。

こちらもファミレスの座席と合わせ技になっていて、姿の見えない主人公がどの位置に座っているのかが直感で分かる配置になっています。

ガラスパンさんの席ではラーゼの吹き出しが中央寄せ
セロニカさんの席では左寄り

ガラスパンさん相手の時は真ん中まで滑り込んで座っていて、セロニカさんや王さまの席では椅子の端っこに腰掛けている、そんな感じがします。何となく王さまとセロニカさんよりもガラスパンさんの方により気を許している感じがしますね。王さまは気さくだけど王さまだし、セロニカさんも優しくて親切だけど男性、一方でガラスパンさんは同世代の女性なので……ということかな。もしかしたらそこまで計算して作ってはないですと言われる深読みかもしれませんが、自分にはこのように効果を発揮しました。

それから、位置で発言者を示しているためウィンドウに名前を記入する必要がないんですよね。これを何度も繰り返して位置で発言者が特定できることを学習するので、人の映っていないイベントシーンでも問題なく誰の発言か見分けられます。台詞の書き分けがしっかりしているおかげでもありますが。名前が表示されているとやっぱりそこで多少なり「覚めてしまう」ので、なくて通じるならない方がいいです。一方で理解しづらいと感じる人はどうしても出てくる演出だと思うのでリスクもあります。安価・無料のインディー作品だからできることかなと思います。だから好きなんだよなーインディーゲーム。

テキスト表示の間

テキストウィンドウの表示タイミングを操作することで間・沈黙を表現する演出が多用されています。息遣いが聞こえる……。これ小説と漫画では絶対できない表現なので興奮しました。テキスト作品と映像作品のいいとこどりです。ガラスパンさんが来ちゃって頭真っ白になってるツェネズちゃんの絶句とか、流刑を告げる直前の喉がつぶれるようなセロニカさんの沈黙とか。最高です。最高。もう感想語彙が300年の休暇に行ってしまった。

あとこれはちゃんと計測してないのですが、テキストスピードもコントロールされてる気がしました。どうだろう。文章が良すぎてそんな気がしてるだけでしょうか。

この王さまのセリフとか、「な、い、ぞ」って溜めて言ってるように聞こえました。ないのかあ……。*7

以上で終わりです。
……本当に終わりかな? 分からない。これだけ書いても結局まだ余韻抜けきりませんね……。また書きたくなったらこの記事に足していくかもしれません。

最後にファンアートです。何か描かないと気が済まなかった。
でもヒトの絵は描けないので月の涙の絵にしました。ちょっと梨に似た味で月のイメージなら、こんな色かな。口の中でしゅわっと溶けてなくなる不思議なジュース。飲みたいなあ。

もうこの先ずっと、ちょくちょく思い出してはゲームを起動してファミレスを享受していくと思います。
おいし水さん、本当に最高のゲームをありがとうございました。次回作もめちゃくちゃ楽しみにしています。

また記事が増えた!
kamkrgame.hatenablog.com

*1:絵で見るとスライムみたいで可愛いけどリアルに対面したらSANチェック案件なのかもしれません。

*2:92番さんは整然とした思考と発話ができなくなってしまっただけで記憶や認識に支障が出ているわけではなさそうなので、人間のことも単に知らなかったものと思われます。

*3:が、46番さんに人間名が無いのは実際のところ考える労力を省いただけだと思われます。ラーゼの名前すら卓を囲むシーンで必要になったから慌てて考えたと作者さんが日記に書いておられるので……。

*4:月の涙を初めてストローで飲んだ時、ラーゼを出迎えた店員が「あなたのご友人がお待ちしています」と言っています。これもセロニカがやってくることを想定してセットされていた台詞なのではないかと思われます。あなた(セロニカ)のご友人(クライン)が待っています、と。

*5:なんならデータクラインが月関係の情報を持たされていなかったのもセロニカが来る予定だったからかもしれません。相手にとって自明の情報をわざわざ搭載しておく必要はないでしょうし。

*6:ガラスパンにミルクについて聞くと「私たちが使い切っちゃったの」と言ってきますが、この「私たち」は「自分とラテラ」という意味だと思われます。

*7:Twitterで「ケーキ(計器)あった!」って言ってる方見かけてそれだ!!ってなりました。ケーキあります!