くらげーむ

やったゲームの話をします

体験を作りたいと思った

雑記も雑記、というか日記。やったゲームの話をするブログだけど、今回は何かをプレイした話ではありません。でも自分がゲームを好きな理由と深くつながってるのでここに書きます。

具体的には、オンラインイベント(オンライン即売会)で自分がやっていた出し物の話です。
例によって長~いです。削る気がない。自分の記録なので……。

オンラインでイベントをやるということ

オンライン即売会とは何か一応ざっくり説明しておくと、ものすごく雑に言えばコミックマーケットとかの同人即売会Webサービス上でやろう、というものです。

使用していたサービスはここ。
https://pictsquare.net/
※2023年8月に大規模情報漏洩が起きててんやわんやになりました……複雑な気持ち。

個人が好きなテーマでバーチャル会場を借り、イベントを立てることができます。出展者は長机の代わりにそれぞれの「店舗」を割り当てられ、規定サイズのドット絵で好きに飾り付けることができます。競合サービスにはVR会場のものもありますが、ここのサービスは2Dです*1。しかも解像度低めのドット絵で、雰囲気はだいぶ昔のJRPG

三年前くらいからハマって二次創作をやっている作品があり、ファンの方の一人がそのイベントをここで立ち上げてくださいました。私はそこにずっとサークル出展をさせてもらっていました。

使っていた店舗画像と自作くらげアバター。画面はテスト会場のもの。

ここでは現実の即売会とは違って、物的な配布物の用意は必須ではありません。別のWebサービスで掲載している作品へのリンクを貼っておくだけでもサークルとして参加可能です*2。即売会というよりは展示会という方が近いのかもしれません。私も最初の数回は単純に作品ページへのリンクを置いているだけの店舗を出していました。

オンライン即売会が急成長してきたのはここ数年、コロナ禍でどこもイベント開催が厳しくなっていた中のことでした。対面で本を手に取り言葉を交わすことはできないまでも、同じ作品のファンが同じ日に一か所に集い、参加者のアバターが道を行き交いすれ違いする様は「イベントに遊びに行ったあの日」を思い出させてくれるものでした。

主催の方*3は非常に手間暇をかけて会場を作り込んでくださっており、イベントマップは作品のモチーフ*4や季節の飾りで溢れ、アバターで練り歩くだけでも楽しいものでした。

ただ、オンライン即売会には弱点があります。通販や作品展示は、冷めた目で見てしまえばイベントなど関係ない普段の活動と差がつきにくいのです。当日にサークル店舗からのリンクでしか見られないようにする、など限定感のある展示をされている方もいらっしゃいましたが、それは購入できる同人誌と違って本当にその日限りの掲載になってしまい、見られる人は限られるし作った方もまだもう少し見てもらいたい気持ちが残ってしまう。そのため限定にしていてもイベント終了後までしばらく見られるとか、店舗まで行かなくてもツイッターでリンクは公開しているとかの形態を取っている方が多かったように思います。

イベントの日に合わせてみんなが一斉に作品を仕上げて公開するという点では、特別なお祭りである感じもします。でもやっぱり、”イベント会場”に足を運ばないと得られない体験がほしい。イベント会場に行ったから楽しかったのだと思わせたい。いちサークル出展者の立場からでもそれに貢献する何かを作れないか。

そこで考えました。
せっかく店舗とアバターを自由にできるんだから、芝居をやればいいのではと。

キャラの居る世界と現実を接続したい

形式上一言で表すと芝居が一番近いと思うのですが、やりたかったことはお客さんを巻き込んだロールプレイです。

会場となるピクトスクエアの強みは、サークルの持ちスペースが部屋の形をしていること(重要)。そして、ユーザーが作成したアバターを自由に使用できることです。これを使えば、「推しのキャラクターたちが運営しているお店」を仮想現実の中に成立させることができると思いました。イベント会場でコスプレの方が売り子をしている状態に似てはいますが、長机と違い背景を作り込むことができること、他のサークルとは完全分離独立していることで、サークルスペースを一軒の店に見立てることが可能でした。

通路で区切られた部屋形式の店舗。長机より「入店」する感覚がある。と思う。

私はキャラクター達が現実のどこかで骨董品店を経営しているという二次創作小説を書きました。その上で、彼らが自分の店の出張店舗をこのイベントに出店したという設定を作りました*5。イベント参加者である私たちがイベントに申し込んでサークル出展しているという現実に、彼らも同じように申し込んで店を出したという設定を重ねた構図です。

これによって、イベント会場を訪れた参加者はこの店舗に「入店」した時点から「彼らの存在する空間」に入ったことになります。画面の向こうに居る現実に生きている参加者本人が、店舗内に居る間だけはアバターを通じて「彼ら」と同じ次元に立つことができます。(と、感じてもらえていたらいいな……。)

これならイベント会場にある店舗を自分の意思で訪れない限り得られない体験になるのではないかと。

メインのコンテンツとしては自由会話も考えたのですが、それはハードルが高いと感じる参加者の方が多いだろうと推測し、ほとんどこちらが勝手に喋るだけの寸劇にしました。あらかじめ台本を用意しておき、お客さんに最初の一文だけ発言してもらうことで対応する台本をチャットとアバターの動きで再生していく形式です。私がキャラクターのアバター*6を使用し、「骨董屋の店主をやっている彼ら」の役をやりました。

この出し物を、説明のため便宜的になりきりチャットと呼んだこともあります。しかし、厳密にはなりきりチャットとは楽しみの質が違う物と捉えていました。なりきりチャットは自分自身がキャラクターになった気分と会話を楽しむものです*7が、この展示は「この空間に滞在すること」を楽しむのを目的としていました。

ゲームのプレイヤーキャラクターは真に自分自身ではないし、実際のところ決まったシナリオに沿って生きている。でもその体を借りてゲーム世界の中を歩いている時、自分の意識が第四の壁を越えてあちら側に到達している感覚がある。コントローラーを媒介にして、画面の中のゲーム世界に自分の意思が伝わる。

自分の店舗を訪れてくれた人に提供したかったのはこの感覚です。第四の壁を柔らかくして、ちょっと向こう側に旅行した気分になれる感覚。推しキャラたちが生きているのと同じ空間に自分自身が居るような錯覚。大人になり、ヒーローのスーツアクターを本物だと信じる心が鈍ってしまった今でも、解像度の低い2Dドット絵の世界なら逆に想像力による補完が働き、嘘くささ(これは本物ではないんだと理解してしまう心)を誤魔化してくれるような気がしました。

そういうわけなので、もしかしたら自分がキャラクターとして振舞うことが楽しくてやっているという風に周りの人からは見えていたかもしれませんが、自分としては、それは二の次でした。もちろんキャラクターを演じることだって当然楽しくはありますが(じゃなきゃさすがにやれない)、それが一番ではない。キャラクターのセリフをチャットに打ち込みながらも、自分の目線はほとんど常にお客さん=プレイヤーに憑依していました。私がプレイヤーとして享受できていたら絶対に嬉しい楽しいと思う状況をシミュレートして行動を決めていたのでした。

お客さんの反応と舞台裏

始めた当初は、全然お客さん来なかったらどうしようかと思っていました。リンク貼ってれば別にサークル主が居なくても成り立つ気楽なオンラインイベントで、あえてお客さん来ないと完全なる虚無と化す展示をやる変なサークルがスベっているだけのいたたまれない空間ができてしまう。でも杞憂でした。お客さん、自分が予想していたよりはるかにたくさん来てくださいました。それはもちろん原作の力ゆえですが、それに加えてこういう遊びが好きな方が来てくださってるんだろうなと思ったので、仲間がいっぱい居るのを感じて嬉しかったです。

そして本当にありがたいことに、たくさんスクショや感想をいただきました。キャラに話しかけてもらえた、お話できた、と喜んでくださっているコメントもいただいて、これはきっと狙い通りの体験を提供できたということなんじゃないかなと思っています。

中でも、二人居たキャラのうちの片方には目が合うだけで*8緊張して、もう片方は本当に話しかけやすい気がした、とキャラ特性を感じたコメントがあったのには浮かれました。それそれ、それ私も体験したかったやつ……でもみなさんが体験できていたのなら、それに勝ることはありません。

……と、大いに活用させてもらっておいてではありますが、ピクスクさんのチャット機能、正直に申し上げて使いにくかったです。

画面最上部に張り付いてるテキストボックスがチャット欄

テキストボックスが画面上部に固定なのはまあ仕方がないのかな、と思うものの、画面中央に居るアバターとかなり距離があるのが辛かったです。吹き出しのチャット表示と上部のボックスとで視線が忙しい。それと矢印キーが常にアバターの移動に割り当てられているため、テキスト入力をミスした時にカーソルをキーボードで動かせないのがめちゃくちゃ不便でした。テキストボックスにフォーカス当たってる時は移動停止してくれたらありがたかったんですけど……チャット入力しながらアバター動きたいことなんてまずないですからね!

というわけで、用意した台本を手入力するなんてことは致命的に無理なのが最初から分かり切っていました。タイポまみれの噛み噛み必至。かといってテキストを横に置いてコピペするのも腱鞘炎になりそうだなと思いました。

なので作りました、台本再生ツール。

台本ワンポチコピースクリプト(即席)

さほど上等なものじゃないですけれども。自分で使う用だから見た目整える気もほぼゼロ。でもちょいちょいどうやって台詞出してるの? って質問をいただいたこともあったので、せっかくなので公開してみました。お客さんが出してくれたテーマを左から探して、後はコピーボタンをぽちぽちするだけで勝手に一行ずつ送ってコピーできるようになっています。舞台裏ではこんなん使ってました。遊びに来てくれてた方にはへーっと思ってもらえるかなと思います。いかがでしたでしょうか。

おわりに

長々と書きましたが、一言でまとめると私のやりたかったことは「ゲーム体験の二次創作」だったのかもしれません。自分がいつもゲームから得ている楽しさを、自分の店舗までわざわざ来てくれる人にあげたかった。そんな企画パフォーマンスやる割に、実際にゲーム開発してみようという気はあんまり起こらないのはなんでなのかなと思わなくもないです。根本的には新しい遊びを考えるより誰かが作ったゲームをプレイする方が好きだということなのかな。ルールやシナリオを考えることに対して興味がそんなに高くなく、いかに別世界に没入するかみたいなことばかり考えているからかもしれません。

総じて、本当にやって良かったなと思います。「イベントをこんなに楽しんだのは初めてというぐらい楽しかった」とコメントくださった方もいらして……ちょっと泣きそうになりました。

やりたいことはだいたいやり尽くせたということもあり、誰かの作ったイベントに参加してこの出し物をやるのはこれで一区切りがついたかなと思っています。もしまたやりたくなったら、今度は自分で1スペースだけの専用イベントなんかを立ち上げてやろうかな、などと思ってはいます。が、本当に準備すごくめちゃくちゃ大変そうなので、ぐずぐず後回しにして全然できないかもしれません。まだ遊びたいなと言ってくださる方がもし居るのなら、応えたいなという気持ちはあります。放っておいたら本当にだらだらゲームして動かなくなりそうなので遠慮なく尻蹴っ飛ばしてください。

未来は分かりません。なるようになーれ。できればなるだけ大勢のみんなが幸せな方向に。

イベントを作ってくださった主催さん、企画にあたって色々協力してくださったみなさん、変わり種企画の店舗に遊びに来てくれたみなさん、ほぼ毎回来てくれていた驚異の常連のみなさん、ありがとうございました。ものすごく、ものすごく楽しかったです。

またどこかで。

*1:2Dタイプの競合サービスとしては現在「ピクリエ」があります。こちらは今のところ即売会の長机が並ぶ形式をそのまま再現するマップになっているようです。ピクスクはその点、古いRPGの家屋のようなスペースをサークル店舗として提供している所が特徴的です。

*2:イベントによります。システム上は可能ですが、主催者が展示のみNGとしているのであれば本やグッズの通販ページへリンクをつなぐ必要があります。とはいえ展示のみOKのイベントの方が圧倒的に多い印象はあります。

*3:たったお一人で全てを運営していらっしゃいました。完全無償です。本当に頭が上がりません。

*4:ドット絵の上手な方に依頼して作成してもらっていたそうです。これも無償です。ファンの熱意……。

*5:原作が「彼らの世界」にも彼らの話を描いた創作として存在しているという体にして、このオンラインイベントもその世界の原作のファンイベントであるという設定をつけました。フィクションの現実越境演出が大好きなので個人的な趣味です。

*6:ありがたくも無償配布してくださっていたものをお借りしました。

*7:と、思っているのですが、キャラ役の人と自分が会話するのを楽しむタイプのなりきりチャット?も存在するようです。そのタイプなら少し近いかもしれません。

*8:前後左右しか向けない簡素なアバターでこれを感じてもらえたなら大成功ではという気がします。