くらげーむ

やったゲームの話をします

FF16のロマンスはちょっと古びて見えるという感想

FF16クリア後感想、余談編。

全体感想に書いたエンディングについての話で自分の気持ちが彼氏に泣かされているジルの親友になりきってしまった流れで、FF16のロマンス描写についてその後色々と思いを馳せました。注釈に足して終わろうかと思ったのですが、お前らもうちょっと恋人を顧みろという気持ちが盛り上がりすぎて注釈に収まらなかったので記事に昇格しました。

要約:
無事の帰りを悲痛な思いで待つ恋人を置いて一人いい感じに死んでいく英雄はちょっと古臭く感じるよ。

言いたいことは以上です。なお、これは批評ではありません。繰り返しますがジルとテランスの友だちの気持ちになっちゃった人の感想です。ネタバレ満載です。

ジルのこと

ジルに関しては全体感想文のエンディングの項でキレ散らかし書いた内容でほぼ全てなのですが改めてこちらでも語ります。

ジルは最初から最後までずっと忍耐のし通しでした。ジルはあんなにもたくさんクライヴを想って語りかけてくるのに、クライヴがジルを想うシーンはそれに比してかなり少なかったように思います。恋愛物語ではないので全体に対する比重が重くないのは構わないのですが、それにしたってジルの想いに向き合う時間がちょっと足りないんじゃないかという気がします。ジルが何を訴えても、それへの返答はどこか曖昧な印象を受けました。最終決戦前もジョシュアに言われるまでジルの調子に気づかないし。あとジルがバルナバスに囚われた時の心配の軽さは本当に一体何だったのか……本当に彼女のこと愛してます?(親友目線感想)相関図に恋人って書いておけば恋人として成立するわけでもあるまいに。

物語を文字だけの脚本で見ていたころは、クライヴとジョシュアの曲にしようと思っていましたが、吉田さんと話していくなかで、彼の中でジョシュアとの物語には決着がついているけれど、ジルとは決着が着いていないと感じました。
米津玄師インタビュー 「『月を見ていた』は『FF16』というゲームを通して聴いてほしい」 | ゲーム・エンタメ最新情報のファミ通.com

解釈の鬼と名高い米津氏もこう言っている。

結局、クライヴはジルの想いに応えることなく一人納得しながら逝ってしまいました。*1百歩譲って内心には色々な想いが渦巻いていたので何とも思わずすっきり終わりを迎えたわけじゃないよとは考えられるかもしれませんが、そんなもの言われなきゃ知りようがありません。穏やかで切ない顔をしながら波打ち際で死にゆくエモい映像しか私には届けられてないし何ならジルの目には燃え尽きた星しか見えていません。最後まで共に戦わせてもらえないどころか看取ることすらさせてもらえなかった。DLCでやってくれるなら手のひら返さざるを得ませんがさすがにエンディング演出をひっくり返すようなことはしないでしょう、多分。

必ず帰ってこられるようにと願いを込めたお守りを受け取りながら、理を破壊するのにこの身を燃やし尽くすことを一瞬の躊躇もなく(恋人の顔をちらりと思い出すことも謝罪を口にしたりすることもなく!)選択し英雄的な結末を迎えたクライヴ。一人成し遂げた顔で月を見上げてる場合か。ジルは共に生きたかったんだよ。共に生きてきたろう*2(過去形)で終わらせるんじゃない。これから共に生きていきたかったに決まってるだろ。でもジルは理解してくれる? そうでしょうね。もう一回弟に説教されてください。*3

月が綺麗ですね……。

こうして個人として生還することなく英雄として世を去った恋人に一人残されたジルにはもう諦めて受け入れて微笑むことしかできません。居なくなってしまったとしても共に生きた事実は消えない、「何もかもがなかったことのように」消えたりしない……*4みたいなことを思うしか仕方がありません。ジルはそういう子だもんね。ワーッと泣き喚いたりしないよね、我慢強いから。だから私が代わりに怒っておきます。勝手に死なないでちゃんと帰ってくるヒーローの方がずっと格好いいんだよ!!

具体例:
www.jp.square-enix.com
最後まで仲間に背中を預けて戦い、でも自分の信念を通すのには仲間を巻き込まず、心配させるけどしっかり生きて文字通り劇的に帰還する主人公。帰ってこれた理由は「生きようとした」から。はちゃめちゃかっこいい。歴代一位かもしれない。これでも死ぬほど心配させられたダガーは割と本気を感じるパンチを食らわせているけど、もしジルだったら優しく抱擁して終わりなんだろうなと思います。優しすぎるし我慢しすぎるので。

テランスのこと

行ってしまったきり帰らない恋人に泣かされるのはなんとジル一人ではありません。テランスも全く同じ構図の憂き目にあいました。

最初は「従者の真似事などを(させるなんて)」と苦い口調で言うほど対等なパートナーだと語られていたのに、最終的にはディオンの一方的な思いで戦線を離れた任務につかされてしまう。そしてそれが今生の別れとなってしまった(おそらく)。脇役だし、全然動向が分からないし、ディオン再登場までに最悪ナレ死してしまっている覚悟もしていましたが彼は生き延びてちゃんとディオンと再会できていた。ああ、良かったなあ……と思ったのも束の間なこの仕打ちに思わず「えっ?」と声が出ました。カットシーンを見る限りきっとテランスも同じ気持ちだったと思います。今なんて?

傍を離れろと命じるのかと動揺し食い下がるこの時のテランスはかなり悲痛です。これまで完璧に忠義の騎士として振舞い続けていた彼の口から出る「できません」は重い。それなのに、ディオンは主命のような形でそれを押し切ってしまいました。*5そして心痛に耐えながらテランスは去っていきます。

色々なことを考えたのでしょう。苦渋の決断だったのでしょう。
でもテランスの気持ちは? ジルの気持ちは?
理解してくれるな? じゃないんですよ。(親友目線感想)(2回目)

でも実際はテランスの親友もディオンなんですよね。もお~~~~~!

しかしこれで決心がついたとばかりにその後のディオンがテランスのことをおくびにも出さないのが(自称友人として)モヤっと来ます。隠れ家で話しかけた時のディオンはかなり吹っ切れているように見える。やけにジョシュアと親しくなってるのも気になる。テランスのこと忘れてるんじゃないでしょうね!(そんなことはないと思いますが)

幸せになってほしい友人への仕打ちに憤ってしまう心はさておき、クライヴの行動もディオンの行動も、ロマンスの型という視点で見るとちょっと昔の英雄のように思えます。(理由は色々あれど)ヒロインの意思や感情より使命が優先され、無事に帰ってきてほしいとどんなに願われてもその身を殺して何かを成し帰らぬ人となる。喜ぶ人々の中、残された人は彼を想って一人袖を濡らすことに。

最近の恋愛描写というとお互い対等なパートナーであり、最終的に何らかの形で別れることになるにせよ対話をするなり背景描写なりでお互いが納得している様子が示されたり、相手の思いを無視して我を通すことにもっと葛藤したりするような描かれ方をすることが多いように思います。*6ただ私のフィクション消化量はそんなに多い方ではないので、実はまたトレンドが変わっているということだったら私の見当違いです。

テランス(と薬売りの少女)のその後については純粋に尺が足りない、もっと見たいという気持ちもあるので、もしDLCで言及されてくれたら嬉しいなと思います。

ジルの叫びを代弁するエルイーズ

ついでにエルイーズのお話です。なんと彼女もまた共に生きたいと願っていた相手に置いていかれる人です。これでもう三人目なんですけど。どういうこと?

まさかエルイーズの物語がこういう方向に決着するとは、前編をやった時点では思いもよりませんでした。弟との居場所が自分の帰るところだと絆を再認識する系で来るのだとばかり思っていました。半ば当たりではありましたが、テオドール、お前もか。こんなに繰り返し描かれるともうFF16のテーマってこれだったのかな? という気がしてきます。(※冗談です)

ツイッターで回ってきた感想noteでサブクエストは本筋から後景に退いたテーマを引き継いでいるという分析を見ましたが、それにならうとエルイーズの物語はクライヴとジルのロマンスというサブプロットの結末*7を示しているのではないかと考えられます。*8大声で泣きながら共に生きたかったと嘆くエルイーズの叫びは、我慢してしまい直接口には出せないジルの叫びを代弁したものだったのかもしれません。

まとめ

以上、友達の彼氏にキレてる人の感想日記でした。いかがでしたでしょうか……。

文句を言いまくっているので誤解されそうですが、別にこれらの点をもって「だからFF16のストーリーはダメ」みたいなことを思っているわけではありません*9変えた方がいいとか書き直せとか言いたくなるような感情は全くありません。これだけの感想が出てくるくらいには各キャラクターに魅力を感じていたのだとご理解ください。

ただロマンス面でビターな結末にするなら、それ相応の説得力を持つように描写の時間を割かなければ満足度が下がってしまうのではないかな、ということは少し思いました。悲恋は美しい物語になりえますが、書き込む余力がないのであればハッピーエンドの方がやっぱり後味はよろしいです。納得できない悲恋は苦いばかりで旨味が少ないので。もちろん苦い物語が好きな人も居るとは思いますが。

余談ですが途中でジタンの話をしたら我慢できなくなったので久々にFF9のエンディングを見てきました。泣きました。エンディング演出は……FF9みたいなのが好きだな!

終わります。

kamkrgame.hatenablog.com

*1:この演出で生還してる説はちょっと無理だな派です。もし生還していることを紛れもない史実と設定しているなら、死亡と誤認させうる演出はデメリットの方が大きいです。「公式見解は決めてないよ、生還したと解釈してもいいよ」という演出だろうと思います。

*2:「月を見ていた」の歌詞より。これがクライヴの言葉じゃなかったらすみません。

*3:とはいえジョシュアも(恋人というわけではないにせよ)ヨーテに対して近いことをやっているわけなので何ともですが……似たもの兄弟め。

*4:「月を見ていた」の歌詞より。ジルの親友目線だともうそういう風にしか聞こえません。

*5:「頼む」「願い」という言葉の選択はフラットにも思えますが、表情とテランスの返答「あなたのためならば」を思うと王子と騎士の図に落とし込むことで押し切られたと感じました。

*6:具体的に何の話と聞かれるとすぐには出てきません。何となくのイメージです。すみません。

*7:最後まで本筋から外れきってしまうわけではないものの、肝心の結末がオープンエンドによってうやむやにされます。

*8:テオとエルは姉弟であって恋人ではありませんが、設定上はそうでも台詞や演出には割とロマンスの系譜を感じます。恋人設定に差し替えてもあんまり違和感がありません。

*9:残念ながらすごく良かったとも思っていませんが主な理由は別の部分です。もしよければ前回記事もお読みください。